なぜ一流ホテルのドアマンは5000人のお客さんの名前を覚えられるのか?

なぜ一流ホテルのドアマンは5000人のお客さんの名前を覚えられるのか?

私の娘たちが通っていた幼稚園の先生たちは、園児数百人とその親の名前と顔をすべて覚えている。とにかくまあ「すごい記憶力だ!」と感心しきりだ。と同時にどうやって覚えたのか?というのも気になる点でもあった。

その謎を解くヒントは一冊の本にあった。 『ビジネスマンのための「行動観察」入門』 (講談社現代新書)だ。

自らの体験と直接つながると記憶しやすくなる

この本の中で、なぜ一流ホテルのドアマンは5000人のお客さんの名前を覚えられるのか?について触れられていた。お客さんの顔は記憶しやすい。しかし名前は記憶しづらい。われわれの日常生活でも顔はすぐ浮かぶが、「えっと名前ってなんだったけなあ?」というシーンは往々にしてある。「ああ、記憶力が衰える年齢になってきたかのか…」など良くも悪くも勝手に正当化する自分がいることも。

まず顔が記憶しやすいのは、自らの体験と直接つながっているためである。実際にその人に会って、彼が発する言葉や話しぶり、行動、表情をみていると記憶に残りやすいもの。そのときのシーンが映像で記憶されるからだ。また人の言動は基本的にユニーク(唯一であり独自)であるため、誰かとかぶることはほとんどない。

しかし一方で名前というのは、よほど名前自体が珍しくもない限り、いわば単なる記号であって人を識別するためのラベルのようなものだ。もちろん顔と違ってノンユニークで重複もするし、似たり寄ったりの名前もたくさんあることからときにアベコベになることも。

名前にはなくて「会社」名にあるもの

それではドアマンはどのように記憶するか?だが、本書によれば、顔と名前を直接つなげて記憶するのではなく、両者の間にお客さんの「会社」という情報をしのばせているという。これが顔と名前をつなげるフックとなる。 すると、次の疑問がすぐに頭をよぎる。 なぜ「会社」名か?

会社という情報には名前と異なり、そこに「ストーリー性」があるからだという。たとえばNHKであれば、日本の公共放送を担う事業者であり、放送法にもとづく特殊法人、総務省(旧・郵政省)が所管している。自分含め誰もが幼いころに『おかあさんといっしょ』を見て育ち、大晦日には家族全員でこたつを囲んで紅白歌合戦を見ながら年越しそばを食べ、ゆく年くる年でお寺の鐘の音を聞きながら正月を迎えていた。

まあNHKに対してこれと同様のストーリーを挙げる人が多数いるだろうが、そこに描かれる映像は人によってユニークだ。中には「受信料を未払いであるがNHKの番組をよく見ている。でもそこにどこか後ろめたさがある」といったストーリーを描く人もいるだろう。これにくわえて「つい先週受信料の徴収にNHKの人が自宅にやってきた。でもおもわず居留守にしてしまって、さらに後ろめたさが増している今日この頃だ」とその先のストーリーは人によってユニークである確率は高いはずだ。

断片的な情報が結び付き合ってストーリーとなる

このように驚きや感動などの感情がともなうことで「あのときは〇〇だったなあ」と記憶しやすくなり、頭の中で映像が再生され、鮮明な記憶がよみがえってくることもある。ドアマンもお客さんひとり一人との出会いを「体験」としてとらえ、そこに自分の感情をもって接客をすることでお客さん情報を記憶しているのだ。 ドアマンの場合は、職業柄お客さんの会社名が重要になってくるので、それをフックに記憶していたが、一流レストランのスタッフの場合はどうか?

レストランの場合、ビジネス接待がなされる高級料亭であればそうかもしれないが、会社名は職業柄あまり意味をなさない。そこでお客さんの顔と名前とセットに覚えるためのフックとなるのは、そのレストランでの「趣向」による。たとえば「いつもレアステーキを注文するお客さま」や「いつも予約をして窓際の席に座るお客さま」といった情報だ。

ドアマンにしろレストランのスタッフにしろ、それぞれの方法で膨大なお客さま情報を記憶している。決して断片的な記憶で完結しているのではなく、それぞれが結び付き合ってストーリーとなり、その中に顔と名前の情報が組み込まれているのだ。

ストーリーは相手に対する自分の印象付けにも活きる

視点を変えると、相手に自分をどのように印象付けるのかといった点でもこのストーリーというキーワードが大いに活きてくるだろう。 数か月前に「情報は感情に乗せることで伝わる。」といった記事を書いたことを思い起こした。 元リクルートで和田中学の校長を務めていた藤原和博さんが講演で、相手へ印象付けをするために、仮に自分が山田一郎君であった場合にはこんな自己紹介が効果的であると。

「僕は山田一郎っていう名前なんだけど、最近お母さんが僕がせっかく採ってきたカブト虫をね、気持ち悪いからって僕が寝ている間に外に逃がしていたことが分かって、朝から少し落ち込み気味の山田一郎です。よろしくお願いします。」

押し売り営業とトップ営業マンの違いとは?

この『ストーリー訴求⇒相手への印象付け』のプロセスは、ビジネスシーンでも活きてくるだろう。自分がセールスマンであった場合に、初回訪問で(お客さん自らが求めない限り)いきなり自社商材の説明から始めるのも、印象はよろしくないだろう。ゆえに最終的に商材の説明に導くためのストーリー、営業シナリオをイメージしておく必要がある。もっとも俗に評されるトップセールスマンはお客さんに対して「売っている」という自覚はあまりないという。

ビジネス上の情報交換(提供)をする過程の中で、お客さんの課題が浮き彫りになってきた。それを解決する手段のひとつとして自社商材の紹介をする。そのつなぎに無理がなく不自然でもない。もちろんセールスマンの情熱も手伝っていることもあるだろうが、お客さんの気持ちに押し売りされている感覚がなければ、「もしかしたら当社の課題を解決してくれるかもしれない」と期待感を抱いてもらえる確率も高くなる。お客さんの頭の中には自分の会社が良くなっている映像が流れている。これこそがセールスマンが当初描いていたストーリーにほかならない。描くシナリオがはまれば、受注という最良の結果が待っている。

お客さんからすれば、仮に予算の関係などで注文が見送りになったとしても、いきなり商品説明をする営業マンよりもよっぽど良い印象が残っているはずだ。来たるべき予算確保の時期が来れば、どちらの営業マンに声がかかるかは火を見るより明らかだろう。

で、幼稚園の先生はいったい???

つらつらと長くなってしまったが、要はストーリーが記憶および相手への印象付けへの大いなる手がかりとなるということが言いたかった。 冒頭の幼稚園の先生はいったいどんな方法で、なにをフックにして園児数百人とその親の名前を顔を覚えているのか?きっとそこにはストーリーがあるはずに違いない。現在通っている次女が卒園するまでは想像にまかせることにしよう。



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